材 強い木の住まいを支える「強い木」

近代建築史家であり建築家でもある藤森照信氏が、とあるところで戒めています。それは「ひいきの引き倒し」。藤森氏がこのことを指摘しているのは「木造びいき」に関してでした。木造を賞賛するあまり、根拠をよく確認せずに何でもかんでも褒めそやす・・そういう態度が結局は木造そのものを駄目にするのだ、という風にも述べていたようです。

同様のことは坂本功慶応大教授も、著書「木造建築を見直す(岩波新書)」の中で指摘しています。「五重塔は耐震的にできているが、それは関わった大工が意図的にそうしたのだ(古代の大工技能はたいしたものだ)」というよく言われている説に対し、教授は、結果として五重塔は確かに耐震的であるがそれは決して意図したものではないだろう、と柔らかく断定しておられます。

木住協は、大工技能者がつくる木造と徳島すぎを始めとする県産材の利用促進を図るため、ことあるごとにそれらの良さ・魅力をPRしています。しかし、そこに行き過ぎはないか、客観性を欠いているところはないか、藤森、坂本両氏の指摘するような事態は生じていないか、私たちは自らを検証する姿勢を常に持ち続けなければなりません。

木住協、そして本県の林業・木材業界は、県産材の代表である徳島すぎの強さについては常に客観的な姿勢を貫いてきました。徳島すぎのライバルはヒノキ、ベイマツなどですが、「徳島すぎも強さでは負けてはいない、変わらないんだ」などと声高に叫んだりはせず、地道に実験・試験・研究を重ねてきました。その始まりである木住協発足以前の昭和50年代半ばから、一貫してそのスタンスは変えていません。 実験や研究などの、ほぼ四半世紀に亘る活動の成果は数多く、それぞれに重要で貴重なものです。そのうちの強度・構造に関する代表的な事項の概略を以下に列挙します。

□従来の見方を覆す徳島すぎの強さを実験で確認

昭和56年から3カ年国立林業試験場で実施した徳島すぎの実物大強度試験で得られた結果です。それまで建築基準法施行令においてスギの強度は低いものとされていましたが、この実験の結果、同法施行令の規定値以上であることが判明したのです。

□県内流域ごとに徳島すぎ梁材の強度を実験で確認

昭和61年度に導入した実物大強度試験機を用い、県森林林業研究所が県内各流域ごとに徳島すぎ梁材の強度実験を実施していきました。流域ごとのデータを集積し、徳島すぎの利用促進に役立てるためです。

□グレーディングマシーンを導入し木材強度を計測できる体制を実現

平成11年に木材強度の非破壊検査方法のためのグレーディングマシーン(木材を打撃したときの振動を利用して材の曲げ強度が推定できる器械)を県森林林業研究所と県木連が導入し、その実用化を図りました。この結果、徳島すぎにはE70からE90の占める割合が高いという従来の評価を確認できました。

□「徳島すぎスパン表」等の刊行により徳島すぎの科学的な横架材利用を促進

徳島すぎを構造材、特に梁・桁材に使用するとき、どういう大きさ(断面)にすればいいか、を小冊子にまとめました。 この後、残された課題であった接合部仕様の実験を重ね、得られた結果を既刊冊子の内容と一体化したかたち(合本)で作成しました。 いずれも設計事務所及び工務店等に広く配布し、経験則に基づいて行われることからとかく曖昧と批判的に言われていたスギ構造材の設計を、合理的・科学的なものに改めることに成功し、徳島すぎの積極的利用を推し進めました。

歴史的に本県は「ヒノキ第一主義」でした。特に吉野川流域はその傾向が強く、徳島すぎには、弱い・柔らかい、よって化粧材、また、構造材にも余り相応しくない、との評価が下されがちでした。これを打破するために多くの関係者が以上のように地道に努力し続け、大きな成果を上げつつあります。 最大の成果は、関係業界からの信頼ですが、それは徳島すぎ関係者が確かめられた強さと科学的根拠に基づく使い方を大事にした結果だと結論付けられるでしょう。