健 木に溢れた空間から得られる「やさしさ・健やかさ」
木の良さ・魅力をはっきりと言葉に移し替えることは容易ではありません。「何となくいいね」−多くの人々が寄せる率直な感想ですが、もしかしたらこれが最も正しい誉め言葉かもしれません。木に溢れた空間に対して、また、木で造られた建物に対して、人は様々な思いを抱き、そして、様々な評価を口にします。その多くが木に溢れた空間から得られる「やさしさ・健やかさ」に関するものです。
- 1.梅雨時だけど、室内は割とさらっとしている。
- 2.木製の床だと歩きやすいな。
- 3.本格的な和室にしたけど、なんだか目に優しい。
- 4.それに、和室だといつもかん高い妻の話し声が柔らかく聞こえる。
- 5.柱の柾目を何気なしに観ていると不思議に落ち着くね。
- 6.木造の校舎だと小学生も一生懸命勉強するね。
- 7.木に触れていると血圧は下がるし、緊張感も薄らぐようだ。
- 8.内装が木製だと作業効率が上がるようだ。
- 9.木造住宅で暮らしていると乳ガン死亡率が低くなるらしい。
「その通り」とうなずく項目もあれば、多くの「まあ、そうだろうな」、そして、少しですが「まさか」も含まれているでしょう。 「その通り」はきちんと調べられた上での「真理」です。「まあ、そうだろうな」は、科学的証明まではできていないのですが、多くの実験データなどでその確からしさが概ね認められた「事実」といえるでしょう。 最後の「まさか」は、現時点で世にそれほど認められていない、そのデータなどが十分には揃っていない、いわば「現象」と呼ぶべきものかもしれません。
きちんと調べられていないことを「真理」、あるいはそれに近いものとして発言するのは許せないという立場もあります。きちんと調べる、つまり、その与条件や調査方法などを客観的に設定し、得られたデータ等を適正に分析した上で結果を得る、そういった科学的な手法によるもののみが「真理」だと考える方も少なくないのです。
確かに、期待することがらがまずあって、それに都合の良いデータや実験手法を半ば強引に持ってくる、というやり方は、前項でも述べた「ひいきの引き倒し」になりがちであり、決して誉められた姿勢ではありません。特に、強度などはっきりした数値が決め手になるような事項に関しては。
しかし、こと木材の魅力等に関しては「真理」に限りなく近い、あるいはそう位置づけるしかないような事項が少なくありません。例えば、木目の「1/fゆらぎ」に人が感じる心地よさ・安らぎ。木の柾目は一定間隔で平行に走っています。ところが厳密に言うと平行はほんのわずか崩れ、間隔も少しだけ違っています。こういった変化が1/fゆらぎと呼ばれ、人の心臓の鼓動とか自然の風の吹き方のリズム、蛍の光の点滅間隔などと共通するのです。微妙に破綻したリズミックな精密さが木目の心地よさ等に繋がっている−この事実は科学的証明は不可能ですが、といって違うと否定もできません。従って、限りなく「真理」に近いことだと断定しても許されるのではないでしょうか。
物理学者の朝永振一郎氏は、真理発見には2つのアプローチがあると指摘しています(「物理学とは何だろうか」岩波新書)。真理の女神はベールをまとっている。伝統的な分析的科学では、このベールをめくって女神の姿を観る。一方、地球物理学のような観察科学では、女神を四方、上下、遠近からベール越しに観て本当の姿をつかもうとする。 こうして、いずれのやり方でも真理の姿に到達できるのだと述べています。
木住協は木造をたくさん建ててもらう運動を展開しています。そのセールス・トークに様々な木の良さ・魅力が使えれば大きな成果が期待できるでしょう。そのためにも、できるだけ多くの木に関する真理あるいは真理に限りなく近い事実が用意されることを期待したい。それには、実験・試験を重ねることはもちろん、以上の観察科学的アプローチも大きく貢献するのではないでしょうか。 また、木そのものだけでなく、木の使用法・工法の面でも新しい発見・工夫を求めたい。 そうすれば、良さ・魅力の質が高められることに加え、木の活躍する場所が大きく広がっていくと考えられるのです。
項 目 | 効果等の概要 | ||
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居 住 性 |
湿気調整機能 |
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断熱性能 |
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暖かさ・歩きやすさ |
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五 感 へ の や さ し さ |
目 | 反射率 |
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1/fゆらぎ |
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耳 | 残響時間 |
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健 康 ・ 能 率 等 |
殺菌効果 |
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血圧低下 |
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スギの催眠効果 |
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ストレス緩和(*) |
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作業効率向上(*) |
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乳ガン死亡率(*) |
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